飛騨高山旅行記① 旅立ち、やっと会えたね、ヒダ。
午前3時過ぎ、男はむくりと起き上がり、幽鬼のような足どりで鏡に向かった。この死相が顔にこびりついた男、それがオレだ。飛騨高山旅行を前に、遠足前日の小学生のようにはしゃいだせいで風邪をひき、全身の倦怠感と内なる小学生のせいで一睡もできなかった結果がこれである。睡眠を放棄したオレが出発の準備を進めていると、親が2人そろってむくむくと寝床から這い出してきた。「寝られなかったんか」、「もう行くだか」と口々に訊いてきたので、おおん、おおん、と生返事をする。体調が悪いことを看破したらしく、大丈夫か、本当に行けるんか、と心配の声を上げる。折角の飛騨高山旅行をおじゃんにされる訳にはゆかぬ。咳や咽頭痛、味覚嗅覚障害はなかったので、コロナではないということで出発。
外はまだ暗い。4時はこんなに暗かったか。旅に出るときの何とも言えない寂しさは、いつまでも慣れないものだ。幾度となく見送る母を振り返る。忘れ物を心配する気持ちに似ているな、と感慨に耽っているオレは実際に途中の公園で忘れ物がないか荷物をカクニンしていた。あるあるである。
静岡あたりだろうか、ほのかに黄金色のさす田園が広がっている。朝食は新横浜を出てすぐ食べた。東京で買った豚カツの駅弁だったが、衣がやたらと厚くて正直あまり食えたもんじゃなかった。1000円でも駅弁は売れるのだからズルいよなァ、と、免疫反応で腰が痛いオレは窓の外を眺めるほかなかった。
名古屋についてからはあわただしかった。乗り換えに10分もないのだ。オレは名古屋で降りたことがない、だから乗り換えなど不安しかない。乗車券と新幹線の特急券と特急ひだの特急券を改札に入れればいいのか?うーむ、分からん。何せ三枚も入れたことないから。だが時間がない。「南無三!」と三枚共ブチ込んだら無事通れた。特急ひだは7月に新型が出たらしく、車内は新品のにおいがした。見るからに鉄道を愛してやまなそうな野郎共が、眼鏡の奥の瞳を輝かせながらカメラを握りしめている。かくいうオレもウッキウキで窓にかじりつき、前方を見つめていた。この先に、ヒダが、高山が待っているのである。この感動をのせて列車は前へ走り出す、というわけではなく、列車は非情にも後方へ走り出した。どうやら岐阜駅まで後ろ向きで走行し、そこからスイッチバックを行うようだ。犬山城、日本ラインと名所を走り抜け、飛水峡に差し掛かるころには美しい景色の虜になっていた。
苦節三年、夢にまで見た高山にたどり着いたオレは、駅ナカのロッカーと格闘していた。高山のロッカー、無駄にハイテクである。やっとの思いで鍵をかけて外に出た。心なしか空気が心地よい。気持ちのいいほど青い空が頭上に広がっている。高山盆地を囲む山々は青々として、旅人を迎え入れる。やっとこの地を踏むことができた。オレの旅が始まったのだと実感した。
飛騨高山旅行記②へとつづく
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