飛騨高山旅行記③ 平湯その二

平湯温泉で風呂上りに「とんちゃん」を頼んだオレ。注文を終えて時間を持て余していると、囲炉裏のふちにカラフルな木工細工がいくつか置いてあるのが目に入った。どうやらカラクリ細工のようなものらしい。どれ、少々いじってみるか、オレはコイツを手に取ってみた。樽型のおもちゃなのだが、いくつかのパーツに分かれており、正しい順序でパーツを取らなければ分解できないという寸法だ。二つ三つほどパーツを外してみたが、似たようなおもちゃを分解して戻せなくなった幼き頃のトラウマが蘇ってきたのでその辺でやめることにした。

そうこうしているうちにメシが到着した。内容はとんちゃん(ホルモン漬けの野菜炒め、火入れをしてくれた)、白米、お吸い物、タケノコの漬物にたくあんである。値段の割に豚肉がチト少ないんじゃないかという疑念があるが、食べる前から文句を垂れてもしょうがないので lets’実食。普通にタレが美味い。ゴハンがススんでしまう。そそるぜ、これは。野菜だけでもコメが食えるので、肉を食べるころにはゴハンが切れて泣いた。ホルモンには未だかつて見たことがないほど脂がのっており、噛めば噛むほど味が出てくる。タレも肉も、今まで食べたホルモン漬けの中で一番美味い。漬物も勿論美味い。流石漬物の国、ヒダである。

すっかり満足して食事亭を後にする。折角だから平湯民俗館のシンボルである合掌造りの中に入ってみることにした。ちなみに入るのはタダである(白川郷だと民家の中を見学するだけで見学料が必要なので、これはありがたい)。中はひんやりしていて居心地がいい。それなりに広いが、他の観光客もいて、おチビちゃんたちがはしゃぎ回っていたので結構賑やかしである。ふと下を向くと、畳の上に存在感しかない熊の毛皮が。とっても触り心地が良く、実際に少年がその上で眠っていた。ちなみに熊の爪の部分をうっかり踏むととっても痛い。気をつけようね。奥の部屋には炬燵が置いてある。季節が季節なので灯いてはいなかったが、オレはためらいもなく潜り込んだ。寝っ転がると古民家のにおいがする。いつの間にか家の中には誰もいなくなっていて、ただただ自然の静けさだけが続いていた。どことなく寂しくなってくるくらい静かな古民家の中で、しばらく時を忘れて横になっていた。

しばらく目を閉じていたら、どこからか女の子の声が聞こえてきた。どうやら親子連れらしい。一気に音が戻ってきた。少女は父親と屋根裏に上っていった。そこで初めて屋根裏に上がれることを知った。彼らが下りてきた後に俺も登ってみることにした。足場は非常に細く、階段というよりハシゴである。滑らないように慎重に上がっていく。足場が細いので真下がよく見える。もうすぐ2階に手が届くというところでオレはあることを思い出した。高所恐怖症なのだ、真下が見えると発症するタイプの。急に足が震えだす。手摺を握る手に力を込め、安全を確保する。オレよ、落ち着け。引き返そうと考えた矢先、下から先ほどの少女がオレをじっと見ているのに気が付いた。やめろ、オレを見るんじゃあない。こうなってはもう、撤退はオレのプライドが許さなかった。不退転の覚悟で全身の感覚を研ぎ澄ませる。手足のポジションを探りながら一段、一段と登ってゆく。下は、見ない。なるべく視線を上に遣って足の触覚を頼る。こうしてオレは遂に登頂した。安定した足場があることのありがたみを感じようとしたが、床板の隙間から下が見えて無理だった。

膝の震えが止まるのを待って2階を見渡すと、昔の作業具が並んでいる。つま先で石橋を叩くがごとく、そろりそろりと一巡した。ハシゴのそばに円空像が祀ってある。とにかく高所恐怖症のオレには心臓に悪いので、そそくさと退散した。昨夜は一睡もできなかったので、早めにホテルに向かおうと思う。民俗館の隣には、ひっそりと平湯神社がたたずむ。とても素敵な温泉でした。一礼。

飛騨高山旅行記④につづくぜ、これは・・・!